「彼氏いるんスかねー、なんてしつこく聞いてくるか?普通」 あの後混乱する頭と騒ぎ立てる二人を何とか落ち着けて次の授業らをやり過ごし、放課後、バイトの時間がやってきた。 「お願いしまーす」 「あ、ちゃん、お疲れー」 いそいそと制服に着替えてレジに立つ。 高瀬くんは、何でそんなこと聞くんだろう。別に私にはこれと言って恋人と呼べる人はいないし、好きな人もいない。高瀬くんは彼女とかいそうだな、…モテるし。 どうせ教科書を返そうとしてたまたま話題にでたのを発展させただけだろう。深い意味は、きっとない。 ふぅ、と溜息を一つついて天井を眺める。私、なんでこんな高瀬くんの発言の一つ二つに振り回されてるんだろう。 ピンポンピンポン、と自動ドアが開いてチャイムが鳴った。慌てて入り口に向かっていらっしゃいませ、と挨拶する。どのバイトもそうだろうけど、営業スマイルと大きな声は欠かせない。ぼーっとしてる場合じゃなかった、と少し反省しながらそのまま入ってきた人物に目を向けると、高瀬くん、だった。 「あ、さん!」 高瀬くんは笑顔で私のほうへ近寄ってくる。思いもしなかったことに口をパクパクさせていると、後ろから和己の「おー、」という気だるそうな声が聞こえてきた。 「和さん、約束どおりアイス奢って貰いますからね」 高瀬くんは和己に向かってそう言うや否や、奥の方に走っていってしまった。 「(和己、どういうこと!)」 小声で和己に向かって詰問する。和己はちらりとこちらを向いて溜息をつき、 「知らないって、ジャンケンで負けたんだっつの。何、準太に会えてそんなに嬉しいか?」 「(ば か !)」 「さん、お願いしまーす」 はい、とにこにこしながら高瀬くんはソーダアイスを差し出してきた。(今の、聞かれてなかったよね!?) 「あ、うん、ごめんね」 アイスを受け取って80円になります、と和己に向かって笑顔で言うと和己は疲れた顔で小銭を私の手のひらに乗せた。 「さんって和さんと付き合ってるんですか?」 一連の流れを黙って見ていた高瀬くんがいきなりそう言うものだから、私は受け取った小銭を思わず地面に落としてしまった。 「まさか、幼馴染だよ。を彼女にしろって言われても俺にはなぁ」 「その言葉そのままそっくり返してあげるよ和己」 「じゃあさん他に彼氏とか?」 「いません!」 まさかコイツと恋人に見られるなんて!と軽いショックを受けていた私に高瀬くんは、参考になりました、とニカっと笑ってそれじゃあまた!と和己の背中を押してコンビニを出て行った。 私はというと、数分してからハッと高瀬くんの言葉の意味を考えて、眠れない日々を過ごすことになる。 [戻:][進:] |