「?、俺の顔に何かついてます?」

ぼーっと目の前にいる人物、我が校野球部の有名ピッチャー高瀬くんが不審そうな目で私を見てきた。

「いえ、その、すみません、」

私は急いでレジを叩く。そりゃそうだ、ここは学校のかなり近くにある。帰りに生徒の一人や二人訪れたっておかしくはない。


「ありがとうございましたー」

お釣りを渡して軽く会釈をする。高瀬くん。周りの友達がいつも何かしら騒いでいるだけあって、近くで見ると中々カッコいい。
私は少し顔がほてっているのに気が付いて軽く頭を振る。そうだ、もう春だ。暖房を少し下げてもいいかもしれない。



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、お前日本史選択してたよな?日本史の資料集って持ってるか?」
「持ってるよー。何、和己地理取ってるじゃん」
「後輩が忘れたらしくてさー、今日一日貸してやってくんね?」
「おっけー」

和己にちょっと待ってて、と言って私は机の中を漁りだす。資料集は大きい上に重いので基本的に置きっぱなしになっている。


高瀬くんと会ってから数日。あれから特に高瀬くんを見かけることも無く、毎日がまた平穏に過ぎていった。今日、までは。



「準太ー!あったぞー!」

びくっと心臓が跳ねた。今、こいつ何て言った?準太?

「ありがとうございます!、て、あれ、コンビニの…?」

準太、もとい高瀬くんは後ろのドアからひょっこり顔を出して私の顔をまじまじとみている。

「あれ、お前のこと知ってんの?」
「あ、この前学校近くのコンビニで会ったんス」
「あー、バイト先変わったんだっけ」

今度冷やかしに行くなーと笑う和己の足を軽く蹴って、高瀬くんに資料集を差し出す。

「ありがとうございます、えーと、?先輩」
でいいよ、先輩とかいらないから」
「あ、ハイ、高瀬準太っス」
「何改まってんだよ準太」
「や、何となく」
「コイツ幼馴染だから、気軽に付き合ってやって。顔はいいけど性格アレだから気をつけろよ」
「和己うるさい」

じろりと和己を睨むと和己は悪い悪い、と笑って、高瀬くんも真っ赤な顔で笑うのを堪えているようだった。(高瀬くんまで!?)
調度よくチャイムが鳴り、高瀬くんは慌てて「和さん、さん、ありがとうございます!」と言って廊下を駆けていった。
私はまだドキドキしている胸を押さえてほっとため息をつく。そんな私を見て「何だ、準太に惚れたか?」と茶化す和己の背中をばしんとはたいて私は席に着いた。



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