「ボス!準備は整った、か……」 カチャリ、と年季の入った上品な木目のドアを開けると、案の定ボスは部屋中にスーツやら貰った花束を散乱させて襟元のネクタイと格闘している最中だった。 「ロマーリオ!いいところに来たな!」 パァ、とボスは表情を一転させて俺の方に向き直る。 「ネクタイが何かうまい具合に結べなくてなー、…あ、できた!」 「おいおいボス、スーツ着るだけに何時間かかってんだよ。がお待ちかねだぜ」 「は!?だってアイツあんな重そうなドレスがいいとか言ってたんだぞ?もう終わったのか?」 「ああ、おかげで着付けるのにも3人がかりだってよ。30分前に終わったらしいが」 「早く言え!」 ボスはそう叫ぶと先程とはうってかわってテキパキと散らばったスーツを着、ソファの上にあった花束からピンクのバラを2本抜き取って慌てて新婦控え室に向かって走っていった。 俺はそんなボスを目で追いながらゆっくり廊下を歩く。まったく、に言われて来てみればやっぱり手こずってやがったか。 ボスは俺たち部下がいないとどうも調子が出ないらしい。こんなんでこれからの新婚生活、やっていけるんだろうか。 新婦控え室の前まで足を進めると、ボスがドアの前で深呼吸をしていた。 「ボス、早く入ってやれよ。あのさえさすがに今日は緊張してるみたいだ」 「……ロマーリオ…」 「ん?」 「…のドレス姿、もう見たのか?」 深刻な顔でボスがそんなことを言うもんだから、俺は思わず笑いそうになるのを押さえて質問に答える。 「いや、中からにもう着替え終わったからボスを呼んで来いって頼まれただけだ。安心しろ、アイツのドレス姿を一番に見る男はボスだぜ」 「そうか!」 ニカっと笑ってサンキューロマーリオ!とボスは言うと、バタンとドアを開けて中に入っていった。中からが「遅い!」と怒る声が聞こえる。 こっそりドアの隙間から中の様子を窺うと、ボスは笑いながらに向かって謝り、さっきのバラを1本の髪にさして額にキスを落としていた。ボスの胸元にはいつの間につけたのかもう1本のバラがさしてある。 俺はほっと息を吐くと、一足先に会場へ向かうため表に出た。 胸に暖かい気持ちが広がっていくのが分かる。あいつらならきっとうまい具合に生きていけるだろう。いざとなったら俺や、他のファミリーもいるんだ。何より、あいつらはお互いもう1人じゃない。きっと支え合って暮らしていけるはずだ。 目の前には、雲1つない青い空が広がっていた。 跳ね馬ダーリン、純情ハニー |