「ねぇ、一ノ宮先生っていい人だと思わない?」


頼光は僅かに口の端を上げながら大きな扉に寄りかかった。
今私が鎮座しているベットから扉はほぼ正面に見えるため、日が傾きかけて薄暗くなり始めた部屋の中でも5m程度の距離ではお互いの顔がよく見える。


「そうだね、とても素敵な人だよ」

私は今自分ができる限りの笑顔を頼光に向かって作ってみせた。頼光もそんな私をみるとさらに口の端を吊り上げる。あくまで目は、笑っていない。私は屈せずさらに微笑みを深めた。まるで、頼光がこれから何をしようとしているのかなんて想像ができないといった感じに。


「そっか、」

頼光はカツンと革靴の乾いた音を響かせて一歩一歩進んでくる。変わらない笑顔。私は昔からこの男のこういうところが嫌いだった。純粋で穢れているこの男は、いとも容易く人間を絶望の淵に追いやるのだ。ああ、怖い。怖い怖い怖い、


「ねぇ、

どくん、と心臓が跳ね上がる。頼光は私の目の前で立ち止まり、少し屈んで私の顎に手を添えて持ち上げた。当然私は頼光と見つめ合う形になるわけで、逃げる体勢にはとてもなれない。ついに聞かなければならないのだ、この死の宣告を。



「一ノ宮先生の女にならない?」


手の内は明かさない
(自分の女を先生に渡すのも癪だけどさ、あの鬼喰いのために我慢してよ、