「三橋?それどうしたの?」

部活が長引いて真っ暗な帰り道を一人歩いていると、同じクラスの三橋がふらふらと自転車をこいでいるのが見えた。
同じく部活帰りらしく、ユニフォームはそのままで、背中にはマジックか何かで大きく1、と書かれている。
私は軽く走って自転車に追いつき、後ろから声をかけた。
すると三橋はビクッと肩を震わせてバランスを崩してそのまま転んだ。

「わ、ごめっ、三橋、怪我は!?」
「……、さん?」

三橋はきょとんとした表情で私を見上げる。

「三橋、ごめんね、投手でしょ?腕とか、」
「だっ、大丈夫!だから!さんのせいじゃ、ない、よ!」

ほら、と腕をぐるぐる振り回して起き上がる三橋が可愛くて、つい口元が緩んでしまう。

「三橋、家こっち?途中まで一緒に帰ろうよ」
「え、あ、う、うん!」

倒れたままの自転車を起こして、また歩き始める。

「あ、あの、さんは、なんで俺が投手だって思ったの?」
「え、うそ、違う?ごめん、」
「ううん!!その、俺、投手だけど、全然、ダメピーで、だから、」

投手に見えないよね、と三橋は俯いておどおどしながら歩く。
確かに、教室での三橋は学ランを着ていなければむしろ文化系男子の印象がある。

「だって、1番、て、」

書いてあったから、ついエースなのかな、って。そう言うと三橋はまたきょとんとして、嬉しそうに微笑んだ。

「それ、手書き?」
「う、うん、田島くん、が、書いて、くれた!」

1番は俺のだって!、そう話す三橋は入学してから今まで見たことも無いくらいきらきらした顔だった。

「じゃあそんなエースくんにひとつお願いしちゃおうかなー」
「!、な、何?」

「甲子園で投げてる姿私に見せてよ、三橋!」


きみだけがエース
(終わらない奇跡を目の前で見たいの、)