「先輩、送っていきましょうか」

自主練を終えて、着替えて帰ろうとすると校門の近くに先輩が立っていた。
始めは挨拶だけして通り過ぎようとしたのだけど、できなかった。マネージャーの仕事はもうとっくに終わってるはずなのに。
まぁ、下心が無かった言えば嘘だけど、それよりも、先輩は、泣いていたから。

先輩は涙で濡れた顔を上げるとじろりと俺を睨みつけ、「榛名くんはひどいね、」と言った。

「あんまりじゃないスか、人が折角心配してやってんのに」
「それは嬉しいけど、いらないよ、」
「………どーしたんスか、その顔」

「、……私、…振られちゃった」
ださいよね、そう言うと先輩はまたみるみるうちに瞳に涙をいっぱいに溜めて俯いてしまった。

「帰りましょう」
いつの間にか俺は先輩の手を引いて歩き始めていた。

「ちょ、榛名く、や、やだ、」
「もう暗いし危ないっスよ。家、確か加具山先輩ん家の近くって言ってましたよね」

俺は歩くことをやめない。やがて先輩も抵抗を諦めたらしく、自然と俺の隣で歩いていた。

「次、右ですか?」「……、うん」

特にこれといった会話も無いまま、俺たちは歩いていった。
手は繋いだままで、きっとはたから見れば恋人同士にだって見えるんだろう。

「…すごく、優しい人だったの」

先輩は唐突に口を開いて喋りだした。

「優しくて、頭もよくて、キラキラしてた」
「一緒にいるのが楽しくて、幸せで、大好きだったの」
「でもね、……他校に彼女さんいるんだって」

ぽつりぽつりと呟いて、先輩は再びぽろぽろと泣き始めた。
俺は何も言えずに、ただ黙って隣を歩いた。

「…あ、私、家ここだから、」
表札を見れば確かにの文字。

「……今日は、ありがとう」

俺はドアを開けて中に入ろうとする先輩の手を咄嗟に掴んで、そのまま引いて抱きしめた。

「は、るな、く、」「大丈夫だから、

ぽんぽんと頭をなでて、俺はそっと彼女を解放した。
ふと見ると、先輩は顔を真っ赤にして、また泣きそうになりながら「榛名くんのばーか!!」と叫んで駆け足で家の中へ入っていってしまった。

「先輩ー、明日ちゃんと学校来てくださいねー」

ドアの外からそれだけ言うと、俺もまた自分の家に帰るべく足を進めた。
明日先輩が学校に来て、俺の気持ちを伝えたら先輩はどんな顔をするだろうと考えて。


どうしても譲れない
(ずるいことだと分かっていても、君を手に入れるためなら、なんだって、)