「ツナくん、回覧板持ってきたよー」
「あ、


回覧板を片手に玄関口からツナくんを呼ぶ。我が家のお隣さんである沢田家に回覧板を回すのは、いつの間にか私の習慣になっていた。
今日もいつものようにツナくんが階段から降りてくる。はい、と回覧板を手渡すと、ツナくんは疲れきった様子でありがとう、と呟いた。



「どうしたの?勉強でもしてた?」
「や、俺じゃなくてディーノさんがね……」
「?」
「暇だったら見てあげてよ、字綺麗だしさ」



そう言うとツナくんは力なく笑いながら指で上を指し示した。言葉から察するに、どうやらまたあの金髪お兄さんが来ているらしい。私も知らない仲ではないんだし、挨拶ぐらいはしてもいいだろう。私はツナくんに言われるがまま二階に向かって足を進めた。






!久しぶりだな!」


二階に上がりツナくんの部屋の扉を開けると、金髪お兄さんことディーノさんが私を見てにかっと笑った。私たちより年上のはずなのに私たちよりずっと純粋に笑う人だ。



「仕事が思ったより早く終わってな、部下が戻ってくるまでツナに日本語教えてもらってたんだ」
「日本語……ですか?」



ディーノさん日本語上手じゃないですか、と言いかけて止まる。床にちらばったルーズリーフやチラシの裏には、鉛筆で書かれたお世辞にもうまいとは言えない文字列。
成程、喋るのは得意でも書くのは苦手と見受けられる。



「ひらがなって言うんだっけ?バランス難しいな…曲線ばっかりだ」
「そうですか?ほらこうやって、あ、い、う、え、お……」



床に散らばったチラシを一枚拾ってディーノさんの隣に座り、チラシをひっくり返して真っ白なそこにあいうえお表を作ってみせた。
ディーノさんは感心したような顔つきで私の手元を見つめている。



「こんな感じですよ。書いてみてください」
「こうか?あ…」



そう言うとディーノさんはまたゆっくりゆっくり字を書き始めた。時々がっと線が歪んだり鉛筆の芯が折れたりしているものの、まわりに散らばっている紙に書いてあるものよりいくらかましになってきたようだ。



「か…き……?く…」
「そうそう、そんな感じです」



しばらく机に顎をつけてディーノさんの手に握られた鉛筆を見つめる。そういえばツナくんがなかなか戻ってこない。一階でランボくんたちの面倒でもみてるのだろうか
特にやることもなくてうとうととまどろみかけた頃、「できた!」とディーノさんがばっと顔をあげて私の目の前に一枚のチラシを突き付けてきた。
そこに書かれたのは所々ぐにゃぐにゃと不自然に歪んだ、さしすせそ、かきくけこの文字列。それでも最初の頃と比べれば全然上達した方だ。ディーノさんはにこにこと笑顔でこちらを向いて笑っている。



「上達、早いですね」
「そうか?いつもはこんなうまくいかないんだけどな」



ははっ、とディーノさんはまた笑みを深くした。思わず私も笑顔になってしまう。ふと手元のチラシを見ると、ぽんとひとつの疑問が頭の中に浮かんできた。あれ、これ、



「ディーノさん、」
「ん?」
「これ、順番逆ですよね?」



普通かきくけこ、さしすせそじゃないですか?とディーノさんの方を向くと、ディーノさんは顔を真っ赤にして俯いていた。



「ちょっ…ディーノさん!?」
「………お前鈍感って言われるだろ」
「ええ!?」






さしすせそ、かきくけこ
(好き、の練習)






なんだか甘いのかよくわからないものになってしまい申し訳ないです…orz
こんな素敵な企画に参加させていただいて嬉しいです(´∀`*)
企画中、皆様の作品をとても楽しみにしております。
ありがとうございました。


♪和希(憂鬱)