最後にここに来たのはいつだったっけ。



寒空の中、白い息を吐いてそんなことを思いながら玄関のチャイムを鳴らす。出てきたのは予想通り気の抜けた格好をした男だった。



「……?」
「こんばんは」
「おまっ、今何時だと思って……!」
「いいからいいから」



浜田が発する制止の声も無視してずんずんと中にあがりこむ。彼のご両親が旅行中なのは事前に家の親から聞いていたから、特に躊躇いもない。
記憶を頼りに彼の部屋の前にたどり着いたところで、後ろから私を追いかけてきた浜田に頭を掴まれた。



「何がしたいんだお前は」
「や、幼馴染として一人ぼっちで誕生日を迎える浜田くんを慰めてあげようと思って」
「こんな時間にか」



ポケットから携帯を取り出してみれば時刻は18日の23時を少し過ぎたところだった。冬のこの時間の冷え込みは半端ない。
ぶるりと身震いをした私を見て浜田はため息をつき、扉を開けて部屋の中へ招き入れた。



「ほら、コート」
「あ、ありがとう」
「こんな時間に出歩くなよ、危ないだろ」
「あれ、心配してくれてるの?」
「まぁな」



浜田にコートを手渡してベットのそばに腰をおろす。そうだ、最後に来たのは確か中1の時、風邪を引いた彼にプリントを届けた時だった。



「懐かしいね、この部屋」
「来るなら事前にメールくらいしてくれればいいのに」
「んー、びっくりさせようと思って」
「俺に一緒に過ごす彼女がいたらどーすんだよ」
「あ、その線は初めからないと思ってた」



そう言ってあははと笑うと、浜田はまた深くため息をついて私の横に腰を下ろした。ここが私と彼の定位置だった。



男女間の友情は長く続くか、と訊かれたら今の私は迷わずNOと答えるだろう。
なんせ私と浜田がいい例だ。親同士の仲が良くて物心つく頃にはもう一緒に遊んでいたし、それがずっと続くとも思っていた。
しかし誰にでも思春期なる時期はあるもので、それまでないに等しかった男女の壁は中学のころから一気に分厚くなってしまった。
二人一緒にいるだけでバカな男子どもから冷やかされ、女子に詮索され、それをきっかけに話すことも少なくなりいつの間にか互いの呼び名まで変わってしまった。
そして去年浜田が留年したことが加わって、ついに私と浜田はほとんど他人に近い状態になっていたのだった。



「……こんな風に話すのも久しぶりだね」
「まーな、色々あったし」
「留年とか?」
「るせー」
「そうそう、久しぶりついでにプレゼント渡そうと思って来たんだよね、今日」
「まじ?」
「うん、折角だし」



私はごそごそと持ってた紙袋の中をあさって目当てのものを首につける。



「はい、私」
「………古っ」
「何だよ!浜田のくせに!」



ノれよ!!そう言いながら本当のプレゼントが入った紙袋を浜田に投げつけた。首につけた赤のリボンが揺れて体にまとわりつく。浜田はそれをお腹で苦しそうにキャッチし、うずくまって笑い始めた。



「結構恥ずかしかったのに!!」
「あー、ごめんごめん、サンキュ」
「冗談もわからないのかお前は!」
「え、冗談なの?」



その言葉にとっさに身をかためてしまった。浜田がにやにやしながら顔を近づけてくる。やばい、近い。



「こっちがプレゼントでも良かったんだけど」
「……変態」
「はは」



笑いながら浜田は私の首元にゆっくり手を伸ばしてリボンを解いた。結構な長さのあるそれは私の体の上を滑り落ちて床に散らばる。




「あ、」
「ん?」
「誕生日おめでとう、良郎」




散らばったリボンを足で押さえつけて、浜田を見つめる。
浜田が驚いた表情でこっちを向いた瞬間、広い肩に手を置いて身を浮かせた。




唇が触れ合うまで、あと3秒。






あしもとのリボン




なんだかよくわからない作品になってしまい申し訳ないですorz
素敵な方々に囲まれて浜田の誕生日を祝えると思うと幸せです(´∀`*)おめでとう浜田!
企画中、皆様の作品をとても楽しみにしております。
ありがとうございました。


♪和希(憂鬱)