もう8月も半ば過ぎたある日の夜、あまりの暑さに目が覚めた。
時刻は午前1時か2時というところだろうか。俺は喉の渇きを潤しに、台所へ向かっていた。


少しひやりとした廊下を静かに歩く。角を曲がると、少し離れた所にある台所に明かりが灯っているのが見えた。先客だ。
そっと様子を窺うと、締め切った部屋の中より涼しいと言えどもこの暑い中、味噌汁を煮ながら握り飯を作っている奴がいる。ああ、あの姿は。



「何してんだお前」
「っ!?」


声をかけると、はびくっと細い肩を揺らして飛び上がった。俺はそのまま台所入っていく。



「あ、土方さん、でしたか」
「驚かせたか、」
「大丈夫ですよ」



は振り替えると少しほっとしたような顔を見せて息を吐いた。手は相変わらず握り飯を握っている。



「どうしたんだよ、その握り飯」
「山崎さんたちが今夜一度偵察から戻られる予定なんですよ」
「、今度はターミナル近くの料亭か、」
「…無事、だったらいいんですけど」
「あいつらもああ見えてプロだからな。大丈夫だろ」



ころころと表情を変えながら言葉を返すを見ながら、椅子に腰掛け麦茶でもあるか、と尋ねる。は今出しますね、と握り飯を握っていた手を軽く洗い、カチャカチャと手際よく2つのガラスのコップに冷えた麦茶を注いだ。
サンキュ、と片方を受け取れば、も向かいの椅子に腰掛けふ、と息をつく。



「今夜は暑いな、おかげで目が冴えちまった」
「もう8月の半ばですもんね、結構前に隊士さんたちも何人か氷を取りに来たりしてましたよ。やっぱり皆眠れないんですね」
「まぁ、このクソ暑い中だしな。…お前もこんな中よく握り飯握ったりできるな」
「、これが私の仕事ですから」


それに山崎さんたちも頑張ってますもんね、と加えては笑顔を見せる。暑い暑いと言いつつも、涼しげな笑い顔だ。俺は会話を続ける。


「お前、ひょっとして寝てねェのか?」
「ちゃんと寝さしてもらいましたよ、3時間…くらい?ですけど」
「、体壊すぞ。そしたら仕事も何もねェだろが」
「大丈夫ですよ、今日だけ、ですから」
「は?」
「今夜だけ、特別に見たいものがあるんです」


そう言って笑うは、やっぱり涼しそうだった。



**********



「すみません、わざわざこんな所まで付き合わせてしまって」
「……警察として夜中に女一人で人気のない場所に行かせられるかよ」
「、ありがとうございます、」


でも、見てみたくて。そう言うは俺の前を歩いているため、表情は見えない。しかしまたさっきみたいな期待に満ちた笑みを浮かべているのであろうことは、声の調子から簡単に想像がついた。


あの後に見たいものとは何か聞いてみると、それは屯所から少し離れた所にある丘にあると言う。少し離れた、と言っても歩いて2、30分はかかるだろう。しかも夏の夜だ。変な輩の目撃情報も被害情報も数多く出ている。

さすがにそんな所に女一人ではいかせられないと、俺はと一緒に丘までついていくことにしたのだ、けれども。



「で、その“見たいもの”ってのは結局何なんだ?」
「そんなに急かさないでくださいよ、夜は長いんですから」


はずっとこんな風に自分の“見たいもの”とやらをはぐらかしている。別に教えたからって何が減るわけでもあるまいし、一体何を企んでいるのか。



「ほら、もう着きます、よっ!」


ひょい、と軽く飛び跳ねて、は丘の上に着地した。俺もすぐに後を追って丘に上る。そこに、あったものは、



「………何もねェじゃねェか」


そこに広がるのはただの闇だった。周りに木や民家が無い分余計にそれが強調される。
俺は何だか力が抜けて、ガクッとその場にしゃがみこんだ。

はそんな俺とは対照的に、とても嬉しそうな顔で辺りを見回していいる。本当、何なんだ。



「っ、土方さん、上!」
「!?」


突然叫ばれたそれに咄嗟に反応して上を見上げると、そこには当然、闇に染まった空。それと、



「…流れ星?」
「はい!」


キラリと光って一瞬で消えたそれは確かに。
要するにきっとこれが彼女の見たがってたものなのだろう。その証拠に、はさっきから上を見上げて歓声をあげている。



「この前買い物に行ったとき、近くの茶屋の女の子たちが話しているのを聞いたんですよ、えっと、ペルセ…ウス…?座流星群」
「ふーん」
「流れ星がたくさん見られるなら、私のお願い1つくらい叶えられるんじゃないかなって思ったんです」
「願い?」
「はい、」


山崎さんが無事に帰ってきますように、沖田さんが寝坊しませんように、近藤さんがお妙ちゃんと少しでも仲良くなれますように、土方さんが怒りませんように、隊士のみなさんが今日も元気に過ごせますように!
は一気に空を見ながら捲くし立てると、満足そうに笑いながらこちらを向いた。



「土方さん、知ってます?流れ星が流れてる間にお願い事を言うと叶うんですよ、」
「…お前、そんなの信じてるのか?」
「いいじゃないですか、夢があって!折角ですから土方さんもお願い言ってみたらどうですか?」



こんなにいっぱい可能性があるんですから!はとても興奮して笑いながら両手を広げて見せた。普段からは考えられないような姿だ。そんなにこの光景が嬉しいのだろうか。



は、」
「え?」
「お前は自分の願い唱えたのかよ」


さっきから人の事ばっかじゃねーか。そう続けると、は少しきょとんとした顔でこちらを見つめた後、幸せそうに微笑んだ。



「私の願いは今叶いましたよ」
「?」
「お慕い申してる人とこんな風に夜を過ごせるなんて、考えもしませんでしたから」




幸せです、と、とてもやわらかく笑うの腕をとって軽く引っ張ってみると、思ったとおり彼女は短い悲鳴を上げて、俺の肩口に寄りかかる姿勢となった。2つの鼓動が、重なる。



今胸の中にある1番の願いを口にしたらお前は俯くだろうか、またいつもみたいに笑ってくれるだろうか。





君と流星群を探しに
(お前がいつも笑っていますように)



なんだかとても恋愛要素の薄いものになってしまいましたorz
こんな素敵な企画に参加させていただいて嬉しいです(´∀`*)
企画中、皆様の作品をとても楽しみにしております。
ありがとうございました。


♪和希(リアリストの憂鬱)

お題配布元:h a z y 様(ありがとうございました)