「お疲れ、榛名」
「あ、お疲れ様です先輩!」


昼休み、秋丸と一緒に購買に行ったら憧れの先輩に出くわした。しかも今日は俺の誕生日。
心の中で小さくガッツポーズをして先輩の方に向き直ると、先輩はいつの間にか購買の人混みの中へ突進していっていた。


「おばちゃん、焼きそばパン2つとメロンパンと、あとコロッケパンにコーヒー牛乳ちょうだい!」
「………先輩ずいぶん食べるんですね」
「成長期なの!」


負けじと俺も人混みの中へ入り込み、先輩の後ろに立って声をかけた。先輩は色々な声が飛び交う中購買のおばちゃんからパンを受け取るのに必死で、後ろの男どもがニヤニヤしながら先輩に近付こうとしているのにも気がつかない。(ああもう、この人は、)
俺はぐっと先輩の細い体に自分の体を寄せて男どもの視線をさえぎる。所詮はバカみたいな独占欲だ、今日がオレの誕生日だなんてことも先輩はきっと知らないだろう。俺も、先輩にとっては大勢いる後輩の1人に過ぎないのだから。


ほんの少し暗い方向に気持ちが沈みかけたところで、先輩はやっとパンを受け取ったらしく俺たちは蒸し暑い人混みの中から抜け出し秋丸のところへ戻った。


「あれ榛名、顔色悪いぞー?人混みに酔った?」
「や、そういうんじゃなくて、な」
「?」



「榛名榛名、」


重い頭を抱えて秋丸と話していると、大量の食料を抱えた先輩にちょいちょいと手招きされ、俺は秋丸からちょっと離れて先輩のいるところへ移動する。


「榛名、これあげる」
「え、」


差し出されたのは先輩がさっき買った焼きそばパンだった。これは、もしかして。
顔に熱が集まっていく。先輩は俺に焼きそばパンを押し付けると俺の肩に手を置いて背伸びし、小声で一言ぽつりと囁いて去ってしまった。

ああ俺、生まれて来てよかった。



「誕生日おめでとう、榛名」



この気持ちは止まるところを知らなくて
(自惚れてもいいですか、)