今年の冬は少し地球環境が心配になるほど暖かかった。暖かな日差しの中、春の風に背中を押されて私たちは今日この学校を卒業する。 「先輩、卒業おめでとうございます!」 昇降口を出るとすぐに部活の後輩たちがわっと飛び出してきた。 慣れない袴姿でぎこちなく動き回り、花束を受け取り、写真を撮る。綺麗ですね、と言われたそれはなんだかくすぐったくて、化粧で薄桃色に染まった頬でありがとう、と返事をした。 一通りの挨拶を終えて校門の方へ歩き出す。今日で私はここの生徒ではなくなった。その事実はほんの少し悲しくて、淋しくて、でも、嬉しくて。 ふと目線をあげると、そこには私と同じように慣れないスーツを着て所在無さげにうろうろしている男がいた。 「……浜田?」 「うわっ!」 浜田はよっぽど驚いたのか、胸を手で押さえて肩で息をしていた。それにしてもこの男は何をしているんだろう。二年前、こいつは馬鹿をやって私たちと一緒に進級することはできなかった。本当ならこいつも今日この日にこの学校を後にするはずだったのだ。私たちと、一緒に。 そんなものだから、今日こいつにこんなところで会うなんて思いもしなかった。気まずいとかいう考えはないのだろうか。 「かー、着飾りすぎててわかんなかったぜ」 「浜田もね」 するりと浜田の横を通り過ぎてまた歩き出す。すると浜田は慌てて私の後を追いかけ始めた。 「ちょ、なについて来てんの浜田!」 「ううううるせー!俺も帰るんだよ!一通り知り合いの奴らには声かけたし!」 「………、悲しくないの?」 ぴたりと止まって浜田に向き合う。浜田はきょとんとした顔で私の顔をまじまじと見た後、はは、と笑ってそうだな、と言うや否や私の体に大きな手を回してひょい、と私を持ち上げた。 「!、は、浜田、何!おろせ!」 「と一緒に卒業できないのは淋しいな」 「浜田、何言って、」 「が好きだ」 あんまりにも淋しそうに浜田が笑うから、思わず泣きそうになってしまった。浜田はそんな私を見て、泣いてんなよばーか、とさらに顔を歪ませる。 こらえきれずに嗚咽を漏らす私の耳にに浜田は唇を寄せて一言呟き、また私の体を抱きしめた。 3月、春に寄せて (来年絶対迎えに行くから、) |