「早く部活行きてぇ…」

夕暮れの教室で一人呟いてみるが何も変わらない。
俺がこんなところで足止め喰らってる理由は、机の上に乗っかっている一枚の紙。

「進路希望調査ねぇ…」

俺としてはプロになることしか頭にないんだけど。
そのことを担任に伝えたらあいつは俺を一瞥して「もっと現実に目を向けろ」だなんて言いやがる。
他の進路なんて、俺の中には存在しないのに。

もうさぼっちまおうかなーなどとうだうだ考えているうちに時間はどんどん過ぎていく。
いい加減めんどくさくなって(トレーニングしねぇと!)鞄を持って教室を出ようとすると後ろの扉ががらっと開いて誰かが入ってきた。

「あれ?榛名?」

だ。とたんに俺の胸は高鳴り始める。顔が赤くなっていくのをこらえつつ声をかけようとするものの、全ての熱が顔に集まって行くような気がする。

「どうしたんだよ、
「宿題のプリント忘れたのー」

そう言っては自分の机をごそごそとあさりはじめ、「あ、あった!」と言ってプリントを取り出すとくるりと向きを変え俺の方を見た。(やべぇ、かわいい!)

「榛名は居残りー?」
「あ、あぁ」

まずい、声が上ずる。しかしはそんなこと気にもしないそぶりで俺の机の上にあった白紙の調査用紙を拾い上げた。

「なんだ榛名真っ白じゃん!意外!」
「プロ野球選手になりたいって言ったら却下された」
「あはは、まぁ先生相手にそんなこと言ったら却下されるに決まってるって」

あの人たち頭固いんだもの!にこにこと笑ってそう言うに、俺は興味本位で一つ質問してみた。

は何て書いたんだよ」
「あたし?あたしはねーお医者さん!」

ああそういえばコイツの家って開業医だっけ、そんなことを思いながら言葉を続ける。

「頭いいんだ?
「ううん全然!先生にも無謀だって言われたけど無理やり押し付けてきちゃった!」
「(おいおい……)そこまで医者になりたいの?」
「まぁちっちゃいころから憧れてたし、」

それに、とは付け加えるように一言言うとじゃあまた明日!と教室から去って行った。
やばい、俺今日帰してもらえねぇかも。


僕らの進路希望
(もしどっかの俺様野球選手が怪我したらすぐに治せるでしょ!)(そんなこと言われたら余計プロになるしか考えらんねーだろ!)