目を覚ますと憎たらしいくらいに青い空が目に飛び込んできた。瞬きをした瞬間に涙が一滴こめかみを伝って零れ落ちる。ああ、そうだ、さっき。


「サボリですかィ」


屋上の扉がガチャリと音を立てて開くと、顔も声もよく知った幼なじみが入ってきた。


がサボリなんて珍しいじゃねいかィ。アイツと何かあったのかィ?」
「、ふられた」


一言答えて私は私の顔を覗き込んでいる総悟を睨んだ。色素の薄い髪がキラキラと日光に反射する。ちくしょう、女より女らしい顔しやがって。


「へェ」

一呼吸間をあけて総悟がまた喋りだす。

「何人目?」
「これで4人」
「今回の理由は?」
「前と一緒。『が見てるのは俺じゃない』だって、バカバカしい」
「男なんてみんなそんなもんだぜィ」
「総悟は?」
「ん?」
「彼女」
「ああ、別れた」


予想以上につまらない女でしてねィ、ぽつりと吐き捨てるように呟くと、総悟は仰向けに寝ている私から離れて向かいにあるフェンスに寄りかかった。


「ストラップはお揃いがいいだの、帰りは毎日一緒に帰って、日曜日はデートがしたいだの、面倒くさくてねィ」
「女なんてみんなそんなもんだよ」


ふ、と息を吐いて上半身を起きあげる。少し遅れて、次の授業の本鈴が聞こえた。


「あー、2時間連続サボリ」
「次銀八だろーが、絶対自習になるぜィ」
「何でわかんのー?」
「朝ゲーゲー吐いてるの見たから。二日酔いだろィ」


あー、そうなんだー、と大きく背伸びをして私はまた体を倒した。相変わらず空は青いままだ。私は、こんなに汚れているのに。


「ねー総悟、」
「何でィ」
「もし、私たちが付き合ったら、」


こんなもやもやした気分にならなくて済むのかな、そう言いかけて私は口をつぐんだ。悪い癖だ。総悟は私の逃げ道じゃないのに。


「そうだねィ」

キィ、とフェンスが歪む音がする。気まぐれ王子がもたれかかったまま体を揺らしているようだった。



「俺は誰と付き合っても何しても、を一番愛してるぜィ」
「わぉ」



予想外の言葉に少し驚きながら、私も総悟が一番好きだな、と茶化してみせる。


「そういえばC組の佐藤くん、彼中々いい青年だと思うんだけどどうかな」
「佐藤?アイツ確か最近彼女と別れたばっかりらしいですぜィ」
「本当?狙いどきかな」
「F組の真崎さんは?」
「ああ、他校に彼氏いるんじゃなかったっけ?」


またさっきと変わらない会話が続いて、少し安心する。
そう、これでいいのだ。


私と総悟は交わらない、絶対に。それは一種の境界でもあるし、領域でもあるし、もはや私たちのルールになっている。

そうして私たちは今日も満たされない心を抱えて歩いていくのだ、これからも。



交わらない糸
(総悟くんは本気ですよ)



遅くなって申し訳です…orz
「友達以上恋人未満」な総悟くんです。暗いお話でごめんなさ…(吐血
ケイちゃんキリリクありがとうございました!

♭和希(リアリストの憂鬱)