「副長、髪を切ってもらえませんか」


昼過ぎのうららかな午後、ははさみを俺に差し出してこう言った。
俺は頭が軽くくらくらするのを押さえてその場にしゃがみこんだ。

「女中にでもやらせておきゃいーだろそんなん、何で俺に頼るんだよ」
「皆さん忙しそうで声かけづらいんですよ。そんな時たまたま副長の姿を見つけたもので」

今日は天気がいいから隊士の布団やらシーツを一気にお洗濯するそうです、と中庭を見ながらは付け足す。

「お願いします、今度副長の髪も切って差し上げますから。沖田さんに切られるよりマシでしょう?」

俺はしょうがねぇな、と一つ溜息をついてからはさみを受け取った。



「どこまで切りゃあいーんだ」
「首の真ん中辺りまでざっくり行ってください。それ以上切ったら沖田さんに言いつけますけど」
「それが人にものを頼む態度かァァア!!」

縁側に新聞紙を広げてを座らせる。確かに入隊したときはかなり短かったこいつの髪ももう大分長くなっている。俺はそっとの髪を一房すくい上げてはさみを入れた。

「揃えてくれれば十分ですよ、毛先とかは夜にでもお風呂で女中さんに整えてもらいますから」
「あー、ハイハイ」

ジャキジャキと鳴るはさみを見ながら俺は軽く言葉を返す。さらさらと手を滑っては落ちていくこいつの髪を、不覚にも綺麗だと思ってしまった。

「(何考えてるんだ俺!)オイ、本当にこんなんでいいのか?金ならとっつぁんにでも貰ってちゃんとしたところにでも切りに行けばいいだろうが」
「いーんですよー、土方さん思ってたより真っ直ぐ切れてますし、時間も勿体無いですからね」
「思ってたよりってなんだ、思ってたよりって」

はあはは、と鏡を傾けながら返事をする。

「何ですか、そんなに私の髪を心配してくれるんですか?」
「や、お前だって女だろーが」

何気なく答えるとは笑うのをやめて固まったまま顔を赤く染め上げた。

「んだよ、照れるとこじゃねーだろ」
「違いますー!ちょっと嬉しくなっちゃっただけですー!」
「可愛くねーなー」
「可愛くなくて結構です!」
「折角褒めてやろうと思ったのに」


耳まで赤くなって反抗するに笑みを零しながら、俺はまたジャキンとはさみを鳴らした。


今日はなんて暖かい日