「ちょっ…降ろしてください土方さん!」
「うるせぇ」

私は足をばたつかせながら抵抗する。土方さんはまるで気にも留めずに私をおぶったまま歩き始めた。


「こんな傷へっちゃらです!一人で帰れますからほっといてください!」
「どうでもいいがお前そのだらだら流れてるやつ俺の刀に垂らすんじゃねーぞ。磨く手間が倍になる」
「人の話を聞けェェェ!!」


ほんの数刻前、私たちは攘夷派の隠れ家へ襲撃に行ってきた。その時、ちょっと気を緩めたがために後ろから切りつけられてしまった、のだけど、


「大体お前が油断なんかするから悪いんだろーが」

そ、れはその通りなんだけど、さ。
あと少し距離を縮められていたら間違いなく死んでいた。何が真選組初の女隊士だ。みっともない。

「一応女だろ、傷残ったりしたら嫁の貰い手にも障るだろ」
「…別にそんなこと気にしないからいいんです」

一生剣に生きるって決めましたから、と付け加える。


すると土方さんは何を思ったか急に立ち止まって私を担ぎ直しながらぼそりと、「に傷が残るのは俺が嫌なんだよ」と言った。

私が呆気にとられてぽかんとしていると、黒髪から覗く耳がどんどん赤く染まっていくのがちらりと見えた。


「…士道不覚悟でとっつぁんに怒られますよ」
「うるせー」


私が思わずくすくす笑うと土方さんは黙ってまた歩き始めた。今度は、さっきよりゆっくり、一歩一歩確かめるように。


、」
「?、なんですか」

やばい、怒られるかな。と、ちょっとびくびくしながら私は笑うのを止めた。しかし、土方さんの口から出た言葉は怒るどころか全く反対のもので、

「             」


かぁぁと顔が熱くなっていくのが自分でもわかる。頬が緩んで、嬉しくてまた笑い出しそうなのを必死で堪えた。


「嫁の貰い手なら俺がいるけどよ」
(士道不覚悟、切腹!)